あ♥@マブスファン

マブス専門NBAブログ(不定期)

【考察】ポイントセンター・パウエル-2

 

 前回の続きです。今シーズン急激にポイントセンター化したパウエルですが、なぜそのような変化が起こったのか、2/1のウルブス戦からプレーを抽出して考察してみます。あと一応ポイントセンター戦術のざっくりした定義を「センターがトップからPGのようにパスを捌く戦術」としておきます。

 

 第1Q05:22辺りからポイントセンター戦術が始まります。まずはボールを運んできたセスがハイポストのパウエルにパス、すかさずインサイドのカットを狙います。このシーンで既にこの戦術の良さが表れています。今回はエドワーズがしっかりセスを見ていたので侵入出来ませんでしたが、このディフェンダーがボールマンやエースをついつい見過ぎて自分の本来マークするべき選手を見逃してしまうディフェンダーだった場合、セスは簡単にインサイドでパスを貰うことが出来るわけです。ブレイザーズとかそんな感じでした。

・オフボールムーブでペイントタッチが可能

 今回で言えばもしもエドワーズがセスを見逃してパスが繋がった場合、コーナーを見ていたナズ・リードがゴール下のヘルプに来るわけですが、そうすると右コーナーががら空きになってワイドオープンのスリーを狙える――と思ったら既にゴール下にはO-MAXがいました。なんでだよ。

 まあ誰もがドンチッチみたいに自分の個人技でペイントタッチ出来るわけじゃないからね。セスとかそういう、言ってしまえば非力な選手にも得点を促せる戦術なわけです。そしてカットする為に必要なインサイドのスペースを空けるって意味で、センターが高い位置でボールを持つことは必要になります。

 単純なカットプレーは成立させてくれなかったウルブス。そこでセスが取った行動がTHJの為のオフボールスクリーナーになるというアクションです。これによってTHJをマークしていたNAWを一瞬引き剝がし、THJはパウエルからハンドオフでボールを貰ってシュートまでこぎつけます。外したけど。ちなみにオフボールスクリーンを掛けたセスはそのまま3Pラインに戻ったので、THJがシュートフェイクからセスにパスをすればスリーを打てた、と思ったけどエドワーズはTHJを見ながらセスの方にも寄っていたな。よく見ている。

 という感じの最初のポゼッションでした。通常のP&R役+オフボールスクリーン役が追加されたって感じ。そしてハンドラーの駆け引き以外に、このオフボールスクリーン役も駆け引きに参加出来るので、ディフェンダーとしてはこの三人を同時に監視しなければならないわけです。まあ実際には無理なのでどこかを切り捨てなければならない。そしてこのポゼッションのエドワーズはTHJとパウエルのP&Rでの切り込みに対するディフェンスを捨て、セスに寄りました。正確にはTHJがボール貰うまではインサイド側に寄っていたけど、スリーを選択すると察知してセスに寄りました。ここの状況判断を一瞬でやってのけたエドワーズのバスケIQは凄いなと感心します。

 ちょっと脱線しましたが、プレーメイクに三人関わるって意味ではスペインP&Rとよく似た形のポゼッションでした。そしてこの形がポイントセンター戦術の基本ラインになります。

 

 04:55から次のポゼッション。セスとクリバーの絡みからオフェンスが始まるわけですが、今度はセスがハンドラー役、クリバーがオフボールスクリーン役になります。それに対してファイトオーバーで守っていたところを、今度はスイッチで対応するウルブス。エドワーズにマークされたセスは蛇に睨まれた蛙。タイムアウト明けに修正とか書いた気がするけど、10秒で修正してきたウルブスです。

 ということで一旦仕切り直しになるわけですが、ここでパウエルは左ウィングのTHJではなく、コーナーのO-MAXのところへ。そこから通常、って言っていいか分かんないけどP&Rを仕掛けました。ナチュラルなスピードのミスマッチになりタウンズがO-MAXにファウルします。ここはパウエルの好判断でした。インバウンズパスからの展開はカットされていたのでよく分かりません。

 

 04:20からのポゼッション。THJがオフボールスクリーン役、O-MAXが貰う役になりましたが、今度は今までと違いスクリーンをフェイクに使ってカットするO-MAX。この判断自体は良くてカイル・アンダーソンが一瞬見失っているんですが、パウエルがパスを出す間を作れなかったのが残念。カットのタイミングがちょっと早かったし、スクリーンに行くタイミングも早かった。だから折角フリーになったのにパスが来なかったので仕方なくコーナーに移動するO-MAXでした。ただアンダーソンの足が一瞬止まったことでヘルプ役にならざるを得なかったのは好印象。THJがNAWとアンダーソン二人を引き付けることに成功します。それによってO-MAX、クリバー、セスのシューター陣をナズとエドワーズで守らなければならなくなったのですが、THJが普通に決めました。

 

 03:48のポゼッション。最初のポゼッションと同じくセスとTHJが絡むわけですが、ここをスイッチに切り替えたウルブス、完璧に連携を消しました。また仕切り直しになるわけですが、パウエルがTHJのスクリーナーになるとスリップアクションからフリーになります。それに対してシュートフェイクからパウエルにパスを捌くTHJ。エドワーズとナズが二人ともTHJのフェイクに引っかかりました。これがスリーを打ち続けるTHJの引力。

 ただスリップアクションでボールを貰ってもコーナー担当のタウンズがヘルプしてくれるはずでした。しかしなんとも中途半端な場所に立っていてパウエルの侵入を止めきることが出来ず、泣く泣くもう一人のコーナー担当であるアンダーソンがヘルプに行き、結果としてコーナーのO-MAXまでパスを展開させました。その中途半端な位置にいたタウンズですが、クリバーが右コーナーから唐突にトップへ移動したところを見てゴール下から離れてしまった感じ。コーナーまでパスを繋げたけど、それを読んだナズがすぐにO-MAXへ寄ります。ボールマンを見ながらもちゃんとディフェンスのバランスを見ているナズ。ただカウンタードライブには対応出来ずにダンク未遂のシューティングファウルってポゼッションでした。ぶっちゃけパウエルはTHJからのパスを貰ってそのままシュートに行っても良かった場面だと思います。

 

 ここまで見るとあんまり上手くいっていないパウエルのポイントセンター。さすがにブレイザーズみたいにカット一つで崩せるほど甘くはなかった。ウルブスのディフェンス意識の高さを痛感させられるポゼッションの連続でした。ただ良かったのは、上手く行かなかった時のパウエルの柔軟な対応。04:55のポゼッションではナチュラルなミスマッチになる味方と相手の組み合わせを察知して駆け寄る判断の早さを見せました。03:48ではハンドオフから無理やりスリーを打つTHJの引力を利用してスリップアクションを狙い、ちゃんとフリーでボールを貰えています。ここがパウエルがポイントセンターとしてやっていけそうと思える点でした。そして、これまでのプレーがようやく実を結びます。

 

 02:10のポゼッション。THJとパウエルのハンドオフプレーを消されたマブスは、再びセスとTHJのオフボールの絡みから展開を始めます。セスにマークしたエドワーズはこれまでセスのカッティングを一度も許していません。「どうせTHJでしょ」ぐらいに思ったのかちょっと緩めにマークするエドワーズですが、パウエルはここに初めてパスします。意表を突かれたナズがヘルプに行くわけですが、その結果左コーナーでクリバーがワイドオープンのスリーを沈めます。案の定次のポゼッションでNAWはセスにべた付きしていました。

 パウエルが入ってからは鉄壁のディフェンスだったエドワーズが、凡ミスとも思えるプレーでした。これを偶然と見るのかどうかって話です。カッティングを狙いながらも一度もパスを出さなかったパウエル。それにエドワーズにつかれて一度はバランスを崩したセスだったので、エドワーズ的にはまさかパスを出すとはってところだったのかもしれません。まあ真相は分かりませんが。

 

 

 

■改めてポイントセンター

 というわけでポゼッションを解説しながらポイントセンターの戦術を見ていきました。ディフェンスの強いウルブスだったので分かりにくいですが、重要なのはウルブス相手にもオフェンスを展開出来ているってこと。THJ、セス、クリバー、O-MAXを並べているのにね。クリバーのスリーはまさしく、そういった「展開の積み重ね」がもたらしたものです。脱ドンチッチどころか、脱ハンドラー化したパウエルのオフェンス。

 長らくマブスの課題だったドンチッチ以外の選手のオフェンス構築、そのアンサーとしては充分とまでは言えないものの、方向性は見せたキッド。よく一年掛からずに形にしたなって感じです。ぶっちゃけやってることは完全にウォリアーズと一緒だからね。そしてそれを可能にしたのは、ドレイモンド・グリーンの役に収まることが出来たパウエルの存在が大きい。元々パスの上手さを感じさせる選手ではありましたが、その能力の解釈を大胆に拡大したキッドと、見事に応えたパウエルでした。

 パウエルをポイントセンター化することでマブスに起こるメリットとしては、ハンドラーが不要になるってことです。個人で突破出来るオフェンス力はなくても、オフボールで動く能力さえ備わっていればいいので3&D選手中心のラインナップが可能になります。今までオフェンスの事情からドンチッチを起用せざるを得ず、点は取れるけど守れないラインナップしか用意出来なかったマブス。そこでドンチッチを起用しなくてもいいオフェンスが作れたら、仮にオフェンスが多少手詰まりになってもディフェンスで勝ち切れるラインナップなんていうのが可能になります。そうしたらドンチッチのミニッツは減らせる。そして減らしたら「もっと俺を使え!」と言いそうなドンチッチ。「でも君いたら守れないじゃん」と言うキッド。そういう自然な経路で、ドンチッチがディフェンスでやる気を出してくれそうってのも、管理人がパウエルのポイントセンターに期待しているところです。まあ少なくとも今シーズンの話ではない。

 ただポイントセンターっていうのは重大な欠陥がある戦術でもあります。それがセンターにマッチアップするディフェンダーがゴール下まで引いて守った時、ポイントセンター個人のオフェンス能力勝負になってしまうってことです。例えば20-21プレーオフのアデバヨ。元々スクリーンに対してドロップ気味に守るブルック・ロペスがアデバヨに対して更に引いて守るように対応しました。だからアデバヨはミドルでフリーになるわけですが、ここのシュートを全然決められなかった。そういう経緯があってか、昨シーズン辺りから練習の為か試合中のミドルレンジシュートを増やしたアデバヨです。

 22-23プレーオフのサボニスも一緒。最早無視しているんじゃないかと思うぐらいサボニスに対して引いて守ったケボン・ルーニー。それに対してミドルを打つサボニス。別に酷い確率だったわけじゃないんですが、どうしても50%前後の2点だとどうしてもウォリアーズの得点力勝負には及ばないわけです。だからもうミドル打つ以外ないでしょってぐらい離されても頑なに打ちたがらなかったし、無理やりヘルプディフェンダーだらけのゴール下でポストプレーを初めてオフェンスファウル取られたりもしていました。アデバヨとサボニスっていう、オールスターレベルのポイントセンターですらそういう壁にぶつかっているわけだから、パウエルが同じことをされたらどうなるのかは想像するまでもないって感じです。

パウエル個人のオフェンス能力=ポイントセンターの限界

 そしてこれがヨキッチが異常な理由でもあります。フリーにしたら無力になるアデバヨやサボニスと違い、フリーにしたら試合が壊れるぐらいに決めてきます。かといってヨキッチに寄り過ぎると他の選手にプレーを促されてしまう地獄のようなオフェンスが展開されるので、並みのディフェンス力じゃあどうしようもありません。

 でもまあ、ヨキッチはSMAX、パウエルはベテランミニマムだしね。彼の何倍もサラリーを貰っているドレイモンドやアデバヨ、サボニスですらヨキッチとは程遠いんだから、このぐらい出来れば十分でしょと思います。それにそもそもパウエルはP&Rのロールマンとして優秀な選手なので、そっちの能力を活かせばいいじゃんって話です。

・よりオフボールムーブのパターンを増やす

・各選手にP&Rハンドラーの能力を仕込む

 こういう方向に努力していくのが正解だと思います。ポイントセンターとしてのパターンを増やしつつ、その全てのパターンが潰されても最終的にP&Rに持ち込めるようにっていう感じです。04:55のポゼッションみたいにね。

 

■パウエルの今後

 しかしまあ、凄い変化だ。身体能力第一だったパウエルが一気にスキルビッグマンみたいになった今シーズン。衰えを見せていた序盤から打って変わって、新戦術の中核を担っています。

 ぶっちゃけ昨シーズンまでのパウエルの戦い方だと身体能力の衰えは致命傷で、引退って言葉もそう遠くはないのかなと思っていました。ですが今後は、このポイントセンターっぷりをライブリーにコート上で教えるって役割も出来そう。

ポイントセンター=キャリアの延命措置

 なんかパウエル周りは上手く行ってるよね。マブスとしてはオフェンスの課題を一部解決出来ているし、パウエルとしても身体能力以外の部分で生き残る術を身につけられたし。勿論チームの課題が解決に向かっているっていう、バスケ的な側面でも嬉しいし、単純に好きな選手がもっと活躍できると証明できたっていう、感情的にも嬉しい。二兎を追って二兎を得たキッドでした。ここは心から感謝しています。

 ちなみにいてもいなくても良かったセスがこの戦術によって能力を見せているので、彼のマブスでのキャリアも延命されました。